えだは

モー神通信のTKです。ほんばんは。

『私の男』(桜庭一樹)

直木賞を受賞した最新作。『赤朽葉家』も買ったので詳しくは合わせて書きたい。


一つ。
これまでこの作者は『砂糖菓子の弾丸は〜』で劇中の殺人に対して「世の中の歪みがこんな事件を・・・」と言いかけたある登場人物に対し別のキャラクターに「何か歪みだ。アホの評論家みたいなことを言うな! 子供を殺すやつなんか頭がおかしいんだ!」と反論させている。この作品の中でも老刑事の実感として「普通の人がふとしたきっかけで人を殺すなんて嘘だ。普通の人はそんな時でも人を殺さない。人殺しは特別な人種で、普段は普通の人の間に潜んでいる」と言わせている。殺人者をアチラ側の人間と断じ、こちら側の物語を紡いできたのだ。だから、少女の殺人や子殺しといった題材を扱っていても、圧倒的に健全な印象であった。


しかし、この作品ではそのアチラ側の人間を主題として物語を紡いでいるのである。理解不能な異物と断じる一方で、その理解不能な異物の内面を描く。その取り組みがまず凄い。読んでいて、その「異物」の中で行動の筋は通っていることは理解できるのだが、それでも読者に安易な共感も憧れも許さぬ異物としてそれは存在し続ける。まるで奥歯に挟まった食べ物がゆっくり腐敗するかのように、胸に残る。