えだは

モー神通信のTKです。ほんばんは。

読了

『慟哭』貫井徳郎創元推理文庫
連続幼女誘拐殺人事件を追うAパートと、ある男が新興宗教にハマってゆくBパート。一見無関係なA・B両パートが交互に描かれ、それらがどう集約されるのか? という謎が読み手の牽引役となる。Aパートに登場する誰がBパートの人物にあたるのかという変則的なフーダニットでもある。


デビュー作にはその作者のすべてが詰まっているというけど、この宗教(救い)というテーゼと、変則フーダニットというのは作者のお気に入りのテーマらしく、その後の作品でも繰り返し登場するようです。


例えば『神の二つの貌』なんかは神の存在を求める少年が三つの章でそれぞれ殺人を犯すわけだけど、この少年の彼の中だけで一貫している倫理観や心理が描かれており、読者はそれが誰の殺人に結実するかと推理しながら読むことになる。すなわち「誰を殺すのか」というフーダニットの変則なわけです。


『被害者は誰?』はもっと端的に「被害者は誰?」「目撃者は誰?」「探偵は誰?」「名探偵は誰?」と、タイトル通りそれぞれが別の形のフーダニットを扱った4つの短編を収録ており、よりゲーム的にその要素を抽出した内容となっています。


夜想は『慟哭』と同じく新興宗教をテーマとし、誰が救うのか、誰が救われる者なのか、というフーダニットがストーリーを貫く柱となる。


こうしてある程度の作品を呼んでから俯瞰しても、ほとんどブレてないのに驚かされるけど、逆にその後の作品を読んで作者の生理に慣れ親しんでいただけに、『慟哭』に関しては割とすぐにフーダニットの謎がわかってしまったりした。構成上の難はあったけど、その筆致というか、筆圧はデビュー作の時点でほとんど作者のスタイルとして確立されている。



『クジラの彼』 有川浩:角川文庫)
自衛官を題材とした恋愛小説。
6編の短編が収録されており、そのうち『クジラの彼』と『有能な彼女』は『海の底』の、『ファイターパイロットの君』は『空の中』の続編でもある。超楽しみにしてた文庫化!


ともかく全編甘アマーーーーーーい!
「次世代輸送機開発におけるトイレ方式の官民折衝」なんて題材でなんでこんな「男が王子様に見える瞬間」を描けるのか。キュンキュンくるわー。


これが素直に読めるのは、登場する女の子が仕事で頑張ってるからなんだよね。自分の仕事に矜持を持って、頑張ってるからこそ、その矜持を理解してくれて、最後のところで助けてくれたり、一緒に戦ってくれたりする男が王子様に見える。逆に女の子の側が頑張ってなかったら、同じ男と同じ出会いをしたって相手が王子様になんか見えなかっただろうってことが伝わるんですよ。だからご都合主義には思えないし、反感も感じない。


登場する男もね、自衛隊ってことで、潜水艦に乗ったら何ケ月も会えなかったり、会えたと思ったら臭かったりと、決して一般的な基準で高スペックだとは描写されてはいないしね。だけど、「こんな時にこう来られたら絶対好きになっちゃうわー!」ってシチュエーションが描かれているんです。もうそれがアマーーい! 


もう本当にね、キュンキュンきて男女どちらでも楽しめると思うな。