えだは

モー神通信のTKです。ほんばんは。

読了

君よ憤怒の河を渉れ

西村寿行徳間書店


昭和40年代にモンスター級にヒットしたハードボイルド小説。高倉健主演で映画化もされたので上の年代には有名だが、さすがに私の世代だと知らない方も多いのでは。ちなみにこの映画、中国でも「10億人が見た」と言われる大ヒットだったらしいです。


【あらすじ】
「この人がうちに入った強盗です!」
街中で見知らぬ女性から指さされた時、東京地検のエリート検事である杜岡広人の人生は崩れた。国家権力に追われる身となった杜丘は、あるときは北海道で羆と闘い、あるときは盗んだセスナで飛び立ち、あるときは歌舞伎町の繁華街をサラブレッドで失踪し、ある時は人食い鮫が跋扈する海に断崖から飛び込みながら、自分を陥れた黒幕に迫らんとする。


ちょっとあらすじをなぞっただけでも聞き捨てならないフレーズが多過ぎるのはともかくとして、今や何かのパロディでしか描かれないような、コートの襟を立てたハードボイルド・ガイの活劇が、これまた昭和らしい虚飾を排した硬質な文体で描かれていました。例えばこうだ。



>水だけは豊富だ。水腹が、歩くたびに音をたてた。葦の草の中にナナカマドが真赤な実をつけて、その背景の日高連峰から抜き出た空は深いブルーだった。しかし詩情はなかった。兎を何羽か見た。殺すために石を持って歩いたが、その石もじきに捨てた。


「〜した。〜した。」と続く淡々とした文体の中に、主人公を突き動かす憤怒だけが滲み出るかのよう。多少、ご都合主義のきらいはあったが、そんな細かいことにこだわる人間にハードボイルドは描けないぜ、と行間に作者の語りが潜んでいるかのようでした。パロディなどの第三者視点に毒されてはいけない。ハードボイルドは、これこそが美学なのだと、陶酔し切る人間にしか書けない文章であり、物語なのでしょう。




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