えだは

モー神通信のTKです。ほんばんは。

読了

『回春屋直右衛門 秘薬絶頂丸』 (阿部牧郎講談社文庫)
薬剤師と町医者を合わせたような合薬屋が主人公。泰平の世が続き高齢化が進む江戸、主人公は老人向けの勃起薬の需要が増すと見込んで、その開発を進める。この話の筋道として


1:性に悩む老人を救い、社会貢献ができる
2:儲かれば気になる女性を妾として囲うことができる。
3:原料の薬草の栽培を委託することで、冷害と飢饉に苦しむ故郷を救うことができる(少年期に初恋の少女が遊郭に売られていった経験アリ)


と、主人公にとっては新薬が当たることが、いろんな面でサクセスにつながることが描写される。「性=恋愛」といった建前が混じらない大らかな時代として描かれているからこそ、社会貢献の意識と、センチメンタリズムと、個人的な欲求が矛盾なく同居できる。複雑な社会を生きる現代人としては、そういう「新薬さえ完成すればすべての面で上手くいく」といったシンプルな構図に落し込める人生には憧れを感じざるを得ない。と言うか、そういう現代人が憧れとして生み出した幻想としての江戸時代を描いているという方が正確なのかな。実際の江戸時代がそこまでシンプルだったかは知らないし。


サクセスの達成目標がシンプルな割には「やったーすげー!」というカタルシスはあまりなく、どちらかというとしみじみとした読後感であった。