読了
『ラブソングが歌えない』 (喜多嶋隆:角川文庫)
『エコノミカル・パレス』(角田光代:講談社文庫)
『現在百物語 虚実』 (岩井志麻子:角川ホラー文庫)
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『ペリー』 (佐藤賢一:角川書店)
この表紙の圧倒的ペリー感!(w
ペリーである。
皆さんご存じなところのペリーである。
鎖国をしていた江戸時代の日本を黒船で訪れ、
開国を迫ったアメリカ人。
しかし、ふと考えると彼の背景となると
基本的なことすら知らないことに気付かされる−−
実はアメリカにおいては我らが知るペリーよりも、彼の兄であるオリバー・ハザード・ペリーの方が有名なのだそうだ。オリバー・ハザード・ペリーは独立戦争の英雄であった。山越えの強行軍で素材を持ち込み、突如いるはずのないアメリカ艦隊をエリー湖に出現せしめ、数的不利を覆し北国境線を守り抜いたのだ。激戦の最中に叫んだ
「ドント・ギブ・アップ・ザ・シップ」
の言葉は単なる標語を超え、
海軍のネクタイに縫い込まれる伝説にまでなった。
海軍一家に育ったM.C.ペリーにとって、
8歳年上の兄は当然に憧れの存在であり、
追いかけるべき背中であった。
しかし、その兄は34歳の若さであっけなく病死する。
醜く老いることすらなく死んでしまわれては
不滅の英雄である。堕ちることのない偶像である。
− 兄を超えられない −
兄の年齢を越えて歳月を重ね
当時の海軍最高位である大佐にまで上り詰めても
その想いが晴れることはなったであろう。
そんな彼にとって兄を超える最後のチャンスこそがジャパン遠征であった。
時は列強国が世界中に植民地を広げ、覇権を争う時代。
世界の争乱の中心地であったチャイナに対し、
東回り航路では大西洋を挟む分、
アメリカはどうしても欧州諸国に出遅れてしまう。
しかし、ジャパンを開港せしめ
太平洋航路を確立させれば、どの国よりも優位に立てるのだ。
その国家への貢献は英雄である兄にも劣らぬものとなるに違いない−−
海上の現場を離れ、既に陸上勤務のデスクワークに身を引いていた。
本来ならば退役を待つばかりであった57歳。人生の秋である。
しかし彼は海へと戻って来た。
祖国・アメリカのため、
そして不滅の英雄たる兄の影を超えるため
アメリカ合衆国海軍大佐 マシュー C.ペリー。
未知の国・ジャパンへ向け、人生最後の航海に旅立つ−−。