えだは

モー神通信のTKです。ほんばんは。

読了

『水銀虫』 (朱川湊人集英社★★★☆
ホラー・幻想色のある短編集。
罪と罰の物語。しかも、主に人間の弱さから発生した罪に対し、陰湿でおぞましい罰が延々と続くような、割と救われない物語。その救われなさの中に、人間の哀愁が漂う。


相変わらずこの作者は、この世に存在しない存在をビジュアルイメージとして読者の脳内に想起させる能力に長けている。『花まんま』の妖精生物や、『白い部屋で月の唄を』の静謐な精神世界など、そのおぞましくも幻想的なビジュアルが核となり、作品世界が構築される。そしてビジュアルを伴って想起された印象は、読後も長く頭から離れることはない。見知らぬ風景を旅させてくれる数少ない小説家。


仮にこの作者からストーリーを作る力が失われたとしても、このビジュアル喚起能力だけで小説家としては一生食いっぱぐれることはないだろうと思える。