えだは

モー神通信のTKです。ほんばんは。

読了

『殺し屋シュウ』 野沢尚幻冬舎
浮気した母親を殺そうとした父親を殺害し、闇組織に引き取られたことをきっかけに殺し屋となった男・シュウ。短編集形式で、毎回その時に使用する銃器の蘊蓄が披露され、主人公は殺しの後はその仕事内容をイメージした酒を飲む。このような職業を選んだ人間がさまざまな葛藤から逃れるために「様式(スタイル)」を確立させるというのは、わかる話ではある。


著者の野沢尚(のざわ ひさし)は元々シナリオライター。『その男、凶暴につき』の脚本家であったが、制作に際して大きく変更されてしまい、改稿前の脚本を元に小説『烈火の月』を書いている。こちらは北野武が扮した主人公・我妻刑事に女性の麻薬取締官のパートナーが登場し、彼女が敵組織に拉致されてクスリ漬けにされるなど、かなりキツイ内容。





『ゆりかごで眠れ』 垣根涼介中央公論新社
どうしようもない貧しさと不安定な政情に苦しむコロンビアで、亡き兄の後を継いでマフィアの頭目となった「エル・ハポネス(日本人)」と呼ばれる男。愛する女性も家族も、すべてあらかじめ失われ、渇望と衝動だけが残された日系人の物語。


「物語上の負債」という考え方がある。つまり悪いことをした登場人物は不幸になって終わらなければならず、逆に不幸な目にあった登場人物は幸せにならなくてはならない。もちろんその法則を無視して物語を紡ぐことはできるけど、結局は娯楽小説としては後味が悪いものに仕上がってしまうので、この法則はかなり支配的に機能していると言っていい。そのため、読む側は「物語上の負債」から逆算して登場人物たちの結末がある程度予測できてしまう。


『クレイジー・ヘブン』もそうだったけど、垣根涼介が描くノワール小説の登場人物は、この「負債」の境界線ギリギリをいつも駆け抜ける。生きるか、死ぬか。どちら側に落ちても不思議ではない綱渡りを見せられる。予定調和を許さないフラットライナー。