えだは

モー神通信のTKです。ほんばんは。

読了

『ビート 警視庁 強行犯係・樋口顕』 (今野敏 幻冬舎文庫

今野敏の刑事ものは、事件・推理ものではなく、また横山秀夫のような「警察組織」ものでもなくて、警察を舞台とした人間ドラマという性格が強い。この作品でも傾向の異なる2人の刑事の交錯する心情と、刑事とその家族の関係が主題となっている。だから扱われる事件そのものが特別凝った造りとなっているわけではないし、だからこの作品が面白くないというわけではまったくない。


この物語では刑事の息子として、高校を中退した問題児が登場するのだが、一つ感心したのはこのキャラクターを読者に受け入れさせるストーリーテリングだ。好きな女性がいること、その女性とのからみでダンスに打ち込んでいること、ダンスのコミュニティの中で礼儀を覚えつつあること、ダンスにおいて成長の手応えを感じており、それをコーチから褒められて喜んでいること。こうした描写を重ねてゆく。小説の読者なんてのは、世間から「不良」と認識される人種を敬遠しがちな人たちである。だからこそ、この「不良」を読者に感情移入可能なキャラクターとして受け入れてもらうために、きちんと手続きを重ねているのだ。オタクコンテンツにも造詣が深い作者だからこそ、キャラクター主導型のストーリーの牽引の仕方を心得ているように感じられるし、実際にそれは読みやすさにつながっていると思う。