読了
『リオ 警視庁強行犯係 樋口顕』
『朱夏 警視庁強行犯係 樋口顕』
『ビート 警視庁強行犯係 樋口顕』(今野敏:新潮文庫)
「組織の中の異端」という関係性を描くのはキャラクターものの王道です。少年マンガの「常識的な集団の中の破天荒な主人公」という形を思い出してもらえれば、これは素直に納得してもらえることでしょう。周囲との落差からキャラクターの個性・関係性を強調しやすいし、異端であるが故に物語を大きく動かすブレイクスルーの余地があるのです。
この今野敏による警察ドラマ「樋口顕」シリーズでも、そのように「組織の中の異端」を描いているわけですが、といっても型破りなヒーロー刑事を描いているわけではありません。むしろ主人公・樋口顕は他人の顔色をうかがい、周囲の意見を聞いて調整役に回ることが多い人物。一見主人公には向かないタイプに見えるのですが、実は体育会系で押しが強い刑事集団においては、それこそが異端であり、周囲から一目置かれるという逆転がこのシリーズの面白さのキモであると言えるでしょう。そしてそんな彼が彼の常識と信条にのっとって捜査を進めた結果、最終的には組織の力学からはみ出て、結果スタンドプレーをしてしまうという再度の逆転がカタルシスを生むのです。
そう考えれば、『リオ』と『ビート』に比べれて第二作の『朱夏』がイマイチな理由も明快。『朱夏』では樋口個人に関わる事件に対する個人捜査を扱っているため、組織と個人の対比があまり描かれないから、このキャラクターものとしての面白さがあまり発揮されないのです。