読了
『ウルトラマンメビウス アンデレスホリゾント』 (朱川湊人:光文社)
乙一が『JOJO』の、西尾維新が『デスノート』の、福井晴敏が『ガンダム』のノベライズを手掛けているように、実力もステイタスもある作家が愛情を込めてサブカルもののノベライズを手掛ける例は昨今少なくありませんが、中でも「ステイタス」の面ではこの朱川湊人による『ウルトラマンメビウウス』のノベライズが最も目をひくでしょう。なにせ直木賞作家。例に挙げた他の3名と違い、朱川湊人の過去の作品からは『ウルトラマン』についての愛着を窺い知ることはできず、このノベライズに関してもやや唐突な印象を受けたのですが、実は本人はしっかりとコアなファンだったらしく、そもそもTV本編の脚本まで手掛けているのでした。
内容はと言えば実に真っ当かつ丁寧な小説化。乙一、西尾維新、福井晴敏が自身の作風を大いに活かし、原作との「コラボレーション」としているのに対し、朱川湊人は自身の気配は極力殺し、万人が素直にTV版『ウルトラマンメビウス』の良さを味わえるように腐心しているように感じます。
と言ってもそれは「TVのまんま書く」というのとは違って、「研修隊員ハルザキ・カナタ」というキャラクターを主役として新たに設定し、彼の目を通した意見や、GUYSやウルトラマンへの心情(とその変化)を描くことで、TV版の魅力を小説読者世代によりわかりやすく提示しています。また連作としての筋を通し、一冊の本としての「読み応え」を創出してもいます。
「TV版と同じ魅力が伝わるように、小説という形態に合わせて最適化した物語を書く」
言葉にすれば凡庸ですが、それをこれだけ高いレベルでさりげなく実現した作品というのは稀かもしれません。