読了
『ヴァンサンカンまでに』
(乃南アサ:文春文庫)
自分の魅力の使い方を熟知し、入社1年目にして上司と不倫し贅沢な遊びを体験しながら、将来の結婚相手の保険として若手の一番人気も恋人として確保しているという、今だと「猛禽類」と呼ばれるような女性が主人公。
状況を自律的・自覚的にすべてコントロール下に置いている彼女。しかし、まさしく恋とは「堕ちる」もの。コントロールできているということは、それは本当には相手を好きになれていないということと同義でもある。自律性こそを自らのアイデンティティーとして成長した頭の良いヒロインには、ゲームと割り切って遊ぶことはできても、またスポーツでポイントを獲るように目当ての男を落とすことはできても、恋愛に溺れることだけはできない。
不倫で感情をコントロールできず、刃傷沙汰まで起こした同僚を横目に、自分がそんなヘマはしないと不倫相手とも適度に距離を取るヒロイン。表面的には何も問題ないハズなのに、彼女の内心でずっと渦巻いている苛立ち。そんな24歳の心情が浮き彫りになる。男にとっては天敵とも言えるキャラクターではあるのに、そして作者の目線も決して彼女に同情的というわけではないのに、なんともやるせない気分にさせる。
結末らしい結末がない終わり方だけに、『幸福な朝食』以上に、ヒロインのその後の人生が心の隅にひっかかる。果たして彼女は我を忘れるような恋愛ができるのか。それとも絶望のままに「幸せな結婚」をするのか----。