えだは

モー神通信のTKです。ほんばんは。

帰省中にノルベルト・フォラッツェンによる『国境からの報告』を読んだ。このフォラッツェンっていう人は、ちょっとバイタリティが溢れ過ぎてる困ったおっさんのようだった。「ドイツ緊急医師団」として北朝鮮に入ったんだけど、医療機器が不足する病院で火傷を負った子供を目にしてつい自らの皮膚を移植してしまう。その件で政府から「友好メダル」を贈られて特例的に外国人が立ち入れない地域まで入れるようになる。するとそれをタテにアチコチズカズカ入っちゃう。そこで国民の窮状を目にして政府を批判しまくり、案の定、国外追放になっちまうという具合に、とにかく思いついたら行動せずにはいられない人のようだった(w そのパーソナリティのせいか、内容の割にはあんまり堅苦しい空気を感じることもなく、スラスラと読むことができた。



この本の中では北朝鮮の様子があれこれと語られているのだが、彼が最終的に出した結論は現状では、外国からの援助は仲介する役人の中抜きが激しく、それらを本当に必要としている人には渡らないようになってるから、経済制裁で現政権を転覆させるしかないというものだった。


例えば 1999年から2000年にかけての冬、北朝鮮を襲った水害を考慮して、ケルンのカップ・アナムーア本部は北朝鮮の84万人の幼稚園児のために服を配ろうという計画を立てた。 当初は中国でできるだけ安く生地を手に入れ、縫裁は開店休業中の平壌の工場に委託する計画であったが、この計画を知った「水害対策委員会」はすぐにその資金500マルクを現金で請求してきたのだ。先方の言い分は「必要な材料はこちらで買うことにする」というものだった。


しかし、援助資金がピンハネされる現状を知っていたフォラッツェン氏らカップ・アナムーアのグループは、この「協力の申し出」を断った。 すると北朝鮮側は中国の業者を「紹介」してきた。しかしそれは北朝鮮が経営する偽装業者であった。カップ・アナムールの女性スタッフがその申し出を断ると、「水害対策委員会」は彼女を即刻任務から外し帰国させるよう要求してきた。 彼女には本当の意味での「北朝鮮の人民のための援助」を行う気がないとし、彼女のピザを剥奪し追放処分にすると、中傷され、脅しをかけられたのだ。とてもじゃないが援助を受ける側の役人の態度とは思えない。

彼女は繰り返される脅しや中傷にもひるむことなく、その後も中国やバンコクの会社で生地を買った。すると水害対策委員会は手を変え、品質や量や色にケチをつけたあげく繰り返し言った。
「これもみなわれわれの言うことをきかないからだ」
衣料計画の費用をこちらに現金で振り込みさえすれば、そして我々が「合法的に」買い物をしさえすればこんなことにはならなかったのに。そうして初めて子供たちは「きちんとした」服がもらえるのだから、と。


そして結局現金が手に入らなかったので彼らは思いもよらない手を考えたらしい。できあがったセーターに値札をつけ、特権階級に売るための平壌の店に陳列したそうだ。 これに対し、フォラッツェン氏らが驚いて詰め寄ると、
「諸外国がわが国に対しどれくらいの援助をしているのかを子供たちの親にも知っておいてほしいからだ」
という言い訳がされた。
(しかし彼らが北を出てから知ったところによると、北朝鮮の一般の人には外国からの援助があることなどまったく知らされていなかったのだから、これはばかばかしい言い訳だった)


万事この調子で北朝鮮側は常に自国の会社と契約をとろうとし、そして質の良くないものをわたしておきながら法外な値段をふっかけ、時には支払いや納品に関して腑に落ちない要求をつきつけてくるというのだ。



こうした北朝鮮の状況に驚き、あきれたフォラッツェン医師だったが、真に驚いたのは彼が国外追放されてからだった。


韓国のジャーナリズムは北の実情を知りたがると思っていたのに、北の民衆の窮状を訴えても、報道は皮膚移植をした「友好メダル物語」に終始し、国内2大放送局はそれ以外の情報を流すことを拒否したのだ。『タイム』や『ニューズウィーク』などの国際的な雑誌が彼の話を取り上げてからようやくメダル以外の話も取り上げられたが、それでも記事の肝心の部分が削られたりしたそうなのだ。あげくに「謎の人物」に金大中との面談と引き換えに北朝鮮を批判する意見を撤回させられそうになったりという安物の陰謀論のような体験もしている。これでは「まるで北朝鮮と変わらないではないか」とフォラッツェン医師は本著を締めている。



思えば2000年前後と言えば、時は太陽政策を推進する金大中政権時代。半ば公然と北朝鮮へと裏金が流れ、その見返りとして金大中金正日の首脳会談が実現し、金大中首相にノーベル平和賞が贈られるというご時世である。なんとなくそんなこともあったかもなという気にはさせられる逸話だった。