えだは

モー神通信のTKです。ほんばんは。

読了

『わたし、男子校出身です。』椿姫彩菜 ポプラ社★★★
GID性同一性障害)として生まれた著者の、葛藤に苦しんだ子供時代から、男から女へ自認性への適合手術を経て、戸籍を変更するまでの半生を綴った手記。


GIDに関してはかなり専門的なものから体験手記まで、結構な数を読んだことがあったので、法的手続きから本人の葛藤、周囲からの偏見まで、知識としては特に目新しいことはありませんでした。


作家として評するならば、自身の悲哀を、その悲劇性に酔うことなく、自意識を抑えた形で、それでもきちんと伝わるように提示できている点で、少なくともそこらのケータイ小説の書き手よりは上等な類として認識して間違いがないでしょう。著者のキレイなグラビア写真を見て「いや、それは編集者の手腕だよ」といううがった見方もあるのかもしれませんが、有名になる前から本人のblogを見てるので、やはりそこは本人の文才かと。


実際、これまで読んだ手記の中では格段に読みやすかった(これはデザイン上の成功でもある)。本人が作家としての立身を目指しているわけではないので、変に凝った言い回しなどはなく簡潔。ただ、シンプルに「私のことをわかって欲しい、どういう気持ちだったか伝えたい」という目的に沿って綴られたものです。しかしそのシンプルさ、率直さが功を奏しているというか、文章技術に邪念が入っていない分、ある種の機能美が備わっていると感じます。

それと、得てしてこういう本職の書き手じゃない人の手記だと、その「伝えたい」相手や強度が思い出すエピソードによってマチマチになり、本としての一貫性に欠けることになってしまうことが多いわけですが、本書はとても明確な指向性を持っているのでそういったブレは感じません。


読む限り、著者にとって一番に伝えたい相手は母親なのです。全編を通して本書は、思春期を通して争い続け、そしてようやく和解が叶った母親への感謝の手紙なのです。扱っている題材は特殊ですが、そういう点では誰にとっても共感が可能な、普遍性のある内容だと思います。確かに「女性としての美しさ」という点では、これまでメディアに露出したGIDの人の中で彼女は突出していますが、例えどんなにキレイでも、そういう内容の普遍性なしにはこんなには売れなかったことと思います。