えだは

モー神通信のTKです。ほんばんは。

愛人

子供の頃、近所に「愛人」が住んでいた。大人からハッキリと聞いたわけだはないのだが、なんとなく近所から白眼視されていた状況と、出入りする人の状況を合わせると、今思うとあれは誰かに囲われていた女の人だったのだろうと思い至る。


子供の頃はその人がなんとなく怖かったことを覚えている。「愛人」が何かも知らない年頃であったが、強い異物感と不吉さを感じていたことは間違いない。もっと言えば、生きながら少しずつ死んでいるもののような、そういう幽霊的な怖さを感じていたのだと思う。実際、子供の感覚では自分達の世界とは違う理(ことわり)で生きているもの=「お化け」だったし。


今思い返せば、あれは光届かぬ「奈落」そのものであった。私は仮に万が一将来結婚して、大金持ちになったとしても、愛人を持つことはできないと思う。倫理観からではなく、また相手に対する人情からでもなく、奈落と関わることへの恐怖から。あんな底なしの奈落を自分の人生の一部に抱え込むなんて怖くて怖くて耐えられそうにない。