えだは

モー神通信のTKです。ほんばんは。

『陰日向に咲く』

ご存知、お笑い芸人・劇団ひとりの処女小説。アイドルのおっかけや、ホームレスや、少々頭の緩いギャルといった、華々しさとは無縁な人々を題材とした、どこか悲哀を感じさせる連作短編集。「こんな才能が!」的な帯の文句は少々大袈裟に過ぎるにしても、ちゃんと小説になっていることは間違いありません。そもそも彼は笑いのネタも自分で考えているわけですから、創造的な技術や構成力は身についているのでしょう。


どの話もなかなかに味わい深かったのですが、読み終わり、良かった思った後で得意気な劇団ひとりの顔が思い浮かぶのが小憎たらしいというか、ウザいというか(w ただここで強調しておきたいのは、彼の顔が思い浮かぶのは読み終わった後なんですよ。読んでいる間はひとりの自意識が頭に入ってくることはない。これはつまり「芸人の書いた本」ではなく、一つの小説としてちゃんと独り立ちしてるってことだと思います。有名人が書いた小説第一作目で、ここまで書き手のイメージから作品が独立できているというのは、やはり「才能がある」としか言いようがないんじゃないですかね。才が鼻につくとしても。


確かNHKの『トップランナー』かなんかの番組でどうやってネタを作るのかを訊かれた時に、彼は「パッと思い浮かぶといった方が天才っぽくてカッコ良いんでしょうけど、意外と理詰めで一生懸命作っていくことが多いし、案外そっちのネタの方がウケも良い」というようなことを言ってたんです。この小説を読んでも、いかにも浅田次郎といった「泣かせ」や、乙一を思わせる叙述トリックなんかもあったりして、このへんはかなり自覚的・戦略的に売れてる作品・作家のウケている要素を分析して、取り入れているんじゃないかと思えました。でもそれらをちゃんと消化して自分なりの味つけにしている点はやはり「巧い」と思います。


どうも褒めてるのか微妙な言い回しばっかですが(w、最期に素直に感心したのは、おそらくは劇団ひとり本人は絶対につき合いたいと思わないであろうタイプの人間を主人公として話が書けるということ。そういう部分は、ネタにおいてたくさんのキャラクターを作り出し、演じてきた彼ならではと言いましょうか。他人を演じ、その個性を際立たせる言動やディテールをピックアップする技術は抜きん出ているなと感じました。次回作も買いましょう。