『女王様と私』(歌野晶午)
だけど途中から連続殺人に絡むミステリーになるんです。まぁ、そこもオタクと女王様という組み合わせの目新しさはあるものの、構造的には「女の子のために新しい世界に踏み出して頑張る」というボーイミーツガールもののオーソドックススタイルで好感は持てました。「題材は新しく、手法は王道で」ってのは小説の理想形の一つですからね。だけどミステリの作法にのっとって進めておきながら、主人公が絶対絶命のピンチに陥ってから突然「これは妄想だから好きにしていい」みたいなこと言い出して危機から脱出できちゃうんです。その後は「妄想だけど本当に好き勝手にしちゃったら面白くないので願うが叶うのは4回まで」みたいな条件付きミステリに移行して、その形態でもまとまんなくて結局物語を放棄する形で作品が完結してしまいます。なんつーかそれも計算してそうなったというよりは完全に行き詰って癇癪を起こしてほうり出したような感じなんですね。なんつーの? 『BASTERD!!』の絵が間に合わなくて文字だけで埋めたページを初めて見た時の「やっちゃった」感っていうの?
だって話がおかしくなってから主人公がホモに言い寄られて体と引き換えに助けてもらったりするんですけど、なんか「ホモならすぐSEX、ホモならそういう扱いしてもOK」っていう風な同性愛の扱い方を作家が無警戒にするって、普通品位を疑われますよね。なんか本当に「壊れた」って感じなんですよ。
作者の経歴に傷をつけそうなこの作品を編集者がどうして出版することに決めたのか、実はそこが一番のミステリィです。帯の煽り文句にある通り「問題作」ではありますが、読んで爽快感はありませんし、物語としての整合性を求める人には絶対におススメしません。ご注意を。
これ、タイトルに惹かれてSM関係のサイトでも結構な数の人が買ってるんですけど、みんなどう思っただろうなぁ…。