えだは

モー神通信のTKです。ほんばんは。

ラブストーリー『デッドプール』に貫かれる『I WISH』の精神。および個人的報告

マーベルコミック原作のヒーロー映画『デッドプール』を見て来ました。


傭兵くずれで街のゴロツキ相手に糊口を凌いでいたウェイド・ウィルソンは、娼婦のヴァネッサと恋に落ち、つき合い始める。幸せな時を過ごす2人だったが、ウェイドが末期ガンであることが判明。助かるために怪しげな組織に身を委ねた彼は超人的な回復能力を移植されるが、代償として皮膚がただれた余にも醜い姿となってしまう。元の姿に戻り、彼女を取り戻すため、彼は不死身のヒーロー・デッドプールとなって組織を追い詰めるのだった……


と書くとシリアスなアメコミヒーローっぽいのですが、デッドプールはとにかく下品なおしゃべりクソ野郎で、戦闘中でも常に下ネタを吐きまくり、時には映画作品であることをメタ視してカメラ目線で観客にまで語りかけてきます。とにかくヒーローとしては異例の軽薄で下品なキャラクター造形。なので、その対比としてX-MENの中でも特に“お硬い”キャラであるコロッサスを脇役に配置した采配は巧みでしたね。


■これぞ純愛ラブストーリー。マジでマジで
ただ、そんなキャラ造形に反して、内容は徹頭徹尾ロマンティックなラブストーリーだったと思います。だってウェイドの行動原理は1ミリもブレずにヴァネッサへの純愛のみでしたから。ただここで問題があって、純愛を単なる戦闘理由ではなく、ロマンティックな動機として成立させるためには、前述の軽薄な彼のキャラクターを維持した上で、それでも「ヴァネッサを心から愛していることだけは真実」ということを観客に納得させなければなならないのです。この難しい課題に対し、映画製作陣がとった作劇手法というのが……


「一年通しての 四季折々のセックスシーン」を見せる


というのが斬新過ぎます(笑) 前から後ろから、攻め受け入れ替えいろんなシチュエーションで(笑) 


だけどですね、あれは軽妙なBGMで「お色気シーン」や「お笑いシーン」に擬態してますけども、だからこそまったく押しつけがましくない、まごうことなき「幸福」の描写であったと思っています。



■「一瞬の光」に殉じることで人は前向きに生きていける
傭兵としては優秀だったけどそのキャリアを生かすこともなく街のゴロツキを相手に生活しているウェイド。親戚に犯され続けて育った街娼のヴァネッサ。欠けたところばかり、負けてばかり、人生で誇れるものなんて何も持たない2人で、他人に勝てるのは育った環境の不幸自慢だけ。あまりに不幸であることが当たり前過ぎて、2人はそれを悲しむ感覚すらなく、軽いテンションで話のネタにできるほど。劇中に登場した「幸せとはクソッタレな人生に差し挟まる束の間のCMみたいなもの」という表現が2人の実感で、「幸せになれる」なんて1ミリも想像してないからこそ、刹那的で明るいわけです。(ウェイドが優秀な傭兵だったのは、おそらく彼が死をまったく恐れなかったからでしょう)


しかしそんな2人に訪れた、確かに満たされた瞬間…。幸せなんてものははなから信じておらず、当然幸せになるための努力をすることもなくその日、その日を生きてきたウェイドが、初めて永遠を願い、今という瞬間の永続を願い、プロポーズという行動に出る。それはすなわち今後の幸せに対する前向きな努力です。この瞬間、彼の人生はまさに大きく転換したわけです。それはプロポーズに応えたヴァネッサも同様で。


起こる事実としては以前の実感と変わらず、やはり幸せは一瞬で終わりを告げ、ガンに拷問に皮膚の爛れと「クソッタレな人生」が再開されるわけですが、この満たされた一瞬を信じた以降のウェイドはそれまでと違って、ずっと前向きなんですよ。幸せになるための「前向きな努力」をし続けている。その努力の方向性が 「いかにも怪しげな地下組織の人体実験にその身を差し出す」とか「変態っぽいマスクを手縫いで作る」とか、ちょっと個性的ではありますけども。


とにかく彼の人生に対する姿勢は永遠を信じた一瞬によって、劇的に変化するわけです。それこそあれですよ。「そのうち雨も降る」という人生の闇を真っ向から見つめながらも、それでも「人生って素晴らしい」と信じた瞬間こそが、その後の人生を生きる力を与えるという『I WISH』の精神なわけですよ。つんく♂の魂のメッセージが、送り手を前面に出すのではなく、アイドルというフィルターを介すことで普遍性を得たように、この作品の製作者の人生観もクソ下品な娯楽映画の背景に埋め込まれていることで、かえって輝きを増しているように感じました。


そんなわけでウェイドの人生を巡るドラマの頂点は開始20分も経ってない、ヒーローに変身すらしてない段階で完成するんですけども、だからこそその後は一切悩むこともなく、前向きになった彼が悪党たちを前向きに斬ったり撃ったり死体で遊んだりする様をすがすがしく楽しむことができました。スカッと爽やか! ちなみに見ると楽しいセックスがしたくなるからデートムービーにも最適ですよ!



■個人的報告
で、わたくし事で恐縮なんですが、「人は永遠に孤独で、人生はクソだ」とウェイドよろしく実感してた私にも、これまた幸せになるために前向きな努力をしてみんべかなという瞬間が訪れまして、この度結婚する運びとなりました。ってか昨月しました。至らぬ身は変わりませんが、今後ともよろしくお願い致します。