えだは

モー神通信のTKです。ほんばんは。

読了

『新徴組』 佐藤賢一:新潮社)

主に西洋史を題材とした時代小説を書く佐藤賢一による、珍しい日本史もの。しかしその題材はやはりヒネており、新撰組ならぬ新徴組である。会津藩の預かりで京の警護にあたった新撰組に対し、庄内藩の預かりで江戸市中の警護に当たったのが新徴組で、近代兵科を取り入れた酒井吉之丞の方針から、江戸市中を行軍練習がてらとにかく歩き回ったことから、「お巡りさん」の語源ともなった組織である。


物語の主軸となるのは沖田林太郎。沖田総司の男勝りの姉として知られるミツの夫、つまりは沖田総司の義兄にあたる男である。総司とは親子ほども年が離れ、近藤勇土方歳三たちより一世代上であり、なおかつ江戸に女房子供を持つ身なれば、総司たちと一緒になって尊王や攘夷といった流行り病のような「言葉」に傾倒することはない。貧しさ故に義弟や近藤たちと共に浪士組の公募に応えはしたが、組織が不安定になると京に残留はせずに浪士組と共に江戸に帰東する道を選ぶ。理想に燃えるにはトウが立っている。家族を養う身なれば無理もできぬ。地に足のついた生活こそを望む冴えぬ中年と侮られもする。なれど… 試衛館・天然理心流免許者ならばやはり、強い。


そんな沖田林太郎を主軸に語られる新徴組の物語。これまで新撰組を軸にした小説だと駆け足の説明で終わられてしまいがちだった、官軍と奥州列藩同盟との戦いが大きくフィーチャーされているのも興味深い。


中年が中年ならではの粘り腰と処世を発揮しつつ、青春の熱を取り戻す刹那を描くの佐藤賢一節は健在。




 
『驟り雨』 『闇の穴』  藤沢周平:新潮社文庫)