えだは

モー神通信のTKです。ほんばんは。

読了


虐殺器官 伊藤計劃:ハヤカワSFシリーズ)



メタルギアソリッド ガンズ・オブ・ザ・パトリオット 伊藤計劃角川グループパブリッシング



『ハーモニー』 伊藤計劃早川書房


伊藤計劃の長編3作。伊藤計劃は肺癌で夭折し、作家活動はわずか3年。
これから、という時に無念、だったのだろうな…。


説得力のある近未来SFというのは現在のデフォルメ。
潜在的要件の顕在化。
脳モジュールの特定部位のマスキングによって罰を求めつつ罪を知覚できない個。
その倫理危機/自我危機。


増殖する癌細胞と放射能治療の副作用に打ちのめされながら、
すべての病気が駆逐されたユートピアの息苦しさを書くというのは
どういう境地だったのか。想像を絶する。



内容もいいけど、内容以前にもう
世界を語るディテールや語り口がすごい好きでね。



CEEPという言葉がある。幼年兵遭遇交戦可能性(Child Enemy Encount Posibility)。そのままだ。初潮も来てない女の子と撃ち合いになる可能性だ。その子の頭を、肋骨の浮き出た満足に乳房もない胸を、小銃弾でずだずだにしなければならない可能性だ。トレーサビリティ、エンカウンタビリティ、サーチャビリティ、ビリティ。ビリティ。ポシビリティ。世界にはむかつく可能性が多過ぎる。そして実際、その言葉が使われた場合の可能性は百パーであって、そこではもはや「ビリティ」の意味など消失している。



「新インド政府の提訴を受けたハーグの検察部は、現在インドで活動するヒンドゥー原理主義組織のリーダー八名に対し、逮捕状を出しています。罪状は人道に対する罪、子供を戦闘に動員した罪、そしてジェノサイド罪です」
 すべての文民連邦関係者に共通する特徴を、やはりこの男の声も備えている。音声と内容とが奇妙に剥離している感覚−−自分自身もはっきりと理解していないジャーゴンを、綱渡りのようにぎりぎりでリンクさせ、意味を失う寸前で現実に繋ぎとめ、言葉を紡ぎだしている−−そんな印象のことだ。単純に軽薄と言ってしまってもいいのかもしれないが、いわゆる流行というものにつきまとう軽薄さとは異なる不気味なものが、そこにはある。