えだは

モー神通信のTKです。ほんばんは。

読了

『DIVE!』 森絵都角川書店
競技飛び込みを題材としたスポーツ青春もの。これまで私が読んだこの作者の描く物語の主人公はどこにでもいそうな、感情移入のしやすい"普通"の人物が多かったけど、この作品では競技飛び込みというマイナーで特殊な競技に青春を捧げ、それ以外のもの−−友達や異性とのつき合いや学校生活など、普通の青春を彩るさまざまなもの−−を犠牲にするストイックな競技者たちが主役となっているのが珍しい。飛び込みにかける度に飛び込み以外のすべてを捨てていく競技者たちの物語は、極限まで余分なものを削り落した分、人格の核とでもいうべきものに迫って行く。


物語の中心となるのは知季、要一、飛沫という3人の少年で、最初の3章では章ごとに各人を主役として、それぞれの葛藤や成長を描きつつ、そこで描かれた人物像に相応しい「新しい技」を獲得することに物語が集約されていく。


そして最終章では、各キャラがそれぞれに獲得した新必殺技を持ち寄ってオリンピックの選考をかけた競技会に臨む。参加者が順番に飛び、10回の飛び込みの合計点で競うという競技会のルールを活かし、一飛びごとに視点を変えてエピソードを積み重ねつつ、最後の1ダイブにドラマの盛り上がりのすべてを集約させていく。作劇手法だとわかっていても、大きな物語のうねりに乗せられてしまうこの構成がとにかく見事。競技飛び込みというマイナーな題材で、この題材ならではの一番の見せ方をズビシ!と決めてみせたという印象で、そのスタイルそのものがまた、長いストイックな時間を重ねて2秒にも満たない一瞬の躍動にかける飛び込みという競技の姿と良く合うんですよ。爽快お見事な一作でした。