えだは

モー神通信のTKです。ほんばんは。

読了


名もなき毒 宮部みゆき幻冬舎
『誰か』と同じシリーズ。
『楽園』もそうだったけど、最近の宮部みゆきのテーマは「理不尽への対処」なのかな、と思う。まっとうに暮らす大多数の人々にとって、復讐や怨恨といった因果関係の明確な悪意は実は縁遠いものだ。本当に恐ろしく、本当に現実的な脅威なのは、突然理由もなく向けられる悪意だ。ただそこに居合わせただけで標的となってしまうような、何の落ち度もなくても巻き込まれた時点で元の生活への完全快復は難しいというような、ただただ理不尽な悪意。そういう日常の破壊者に向き合って創作をしようとしているように思う。


だけど、それはそもそも難しい。なぜなら「物語」そのものも、人間が理不尽に対抗するために育んだ装置だからだ。「なんの理由もなく明日死ぬかもしれない」「愛する人が破壊されるかもしれない」。そんな理不尽を認めてしまえば、人は前向きに生きることができなくなってしまう。だからこそ人はせめて物語には結果に対する明確な原因を求める。それによって安心したいから。


理不尽の物語は、日常が破壊された状況から始めなければいけない。そして日常が快復されることもないし、感情的な決着が完全に着くこともない。要するに物語としてカタルシスが得にくいのだ。それはやっぱり読んでても辛いので。