えだは

モー神通信のTKです。ほんばんは。

読了

 

『臨床真理』柚月裕子宝島社文庫

新米の臨床心理士・佐久間美帆が受け持った藤木司は人の声が色に見えるという不思議な共感覚の持ち主だった。司は人が話言葉の色でそれが嘘かどうかを見分けることができるのだ。そして司は同じ施設で育った少女の自殺には何か隠された真実があると美帆に訴えかける。美帆はその調査に乗り出すが…


第7回「このミステリーがすごい」の大賞受賞作。どうも『生首に聞いてみろ』以来、「このミス」とは相性が悪いというか、「ええ!これが?」というか、「『レッドカーペットで大人気!』っていう芸人さんのネタ披露を見た時の微妙な気持ち」というか、そういう乖離具合が続いてたんですけど、今回もだったー!(><)


人の嘘が見抜ける「共感覚」って設定はいいと思うんですよ。何かそういうファンタジックな要素が一つないと素人が事態に介入できませんからね。ただヒロインの佐久間美帆が初めて患者を受け持った新米で、そのモチベーションが仕事上の蓄積からではなく、統合障害で自殺した弟を救えなかったことへの贖罪っていう個人的な感情から来ているから、なんか薄っぺらいんですよね。そりゃあ最初の一人の患者だから「私は絶対に見捨てない」って言えるけど、それって何人も患者を受け持っても言えるものなの? 特殊な職業を題材として扱うのなら、職能としてもうちょっとこなれた人物を出して欲しいところ。というか臨床心理士に対する描写が浅薄過ぎる。


臨床心理士でも素人で、捜査に関しても素人であるヒロインが事件を解明できてしまうということは、すなわち犯罪が非常に陳腐だということ。もったいぶっている割には、どういう犯罪が行われたかはすぐに読者には察しが着くし、また誰が黒幕で誰にミスリードさせようとしているかまで割と早々に透けて見えてしまった。