えだは

モー神通信のTKです。ほんばんは。

読了


『エミリー』  嶽本野ばら集英社文庫
劇中にロリータファッションが登場する小説を書く嶽本野ばらの短編集。


嶽本野ばらが書く物語の主人公はみな確固たる美意識を持っており、時にはそれが主人公たちが現実を生きるための舵として描かれ、そして時には社会から疎外され、孤立した時の鎧として描かれる。多くは後者であり、その場合『下妻物語』に代表されるように孤立した者同士の交流がドラマの主軸となる。


本書に収録された『エミリー』もそうした作品であった。現実的な困難と孤独を抱える少年と少女が永遠を手に入れた一夜について描かれている。魂の孤独を癒し、永遠に手が届く夜。だけど人はそんな夜を超えて、青春を超えて、心も体も薄汚れた自分を自覚しながら延々と続く日常を生きてゆかなくてはならない。そんな諦念を基調低音としながら、それでも美しく奏でられる永遠の光。


それは人生の闇を真っ向から見つめながら、少女たちに『人生って素晴らしい』と歌わせた『I WISH』の精神に似ている。『人生って素晴らしい!』。そう心から信じることができた一瞬の永遠に殉じることとで、人はなんとかこの世界を生きていくことができる。