えだは

モー神通信のTKです。ほんばんは。

読了


『赤い指』 東野圭吾講談社文庫)
書き下ろしミステリ。直木賞受賞後第一作ということだけど、それを著者としては一番スタンダードで息の長い刑事・加賀恭一郎シリーズで、一切の気負いが感じられない小粒な話にするあたりが、こ憎たらしいというか、東野圭吾らしいというか。「直木賞? あぁ、どうも」みたいな。


どこかシニカルに人の情動を斜めから見る傾向がある作者ならではの「家族」の物語。ミステリとは言え犯罪の謎自体は読者にはすぐに解明される。身内から犯罪者が出た時に、家族という集団の中で人のエゴがどういう動きを見せるのか。そしてそれを加賀恭一郎がどう解決するのか。通常のミステリとは少し違う相に重点が置かれている。



塩の街 有川浩:角川文庫)
隕石の落下と共に人が塩になっていく「塩害」に蝕まれるようになった世界が舞台。そういう舞台設定の中での人の情動を描いていく短編集なのかなと思わせておいて、この「塩害」をなんとか解決するというタスクフォースものになってゆく…と思わせておいて実は甘々のラブストーリー。


『海の底』『空の中』と共に自衛隊3部作と言われ、電撃大賞を獲ってデビュー作となった本作が一番最初。だがラノベレーベルの「電撃文庫」では役不足ということで、紆余曲折を経て角川文庫からの出版となっている。『海の底』と『空の中』が夏休み公開の特撮映画大作ガッツリ2時間とすれば、本作は70分ぐらいのやや小粒のボリューム。非常事態の推移よりも主人公2人のラブストーリーに比重を置いた結果か。


解説で初めてこの作者が女性だったと知る。専門職の人々が協力し、その専門スキルをそれぞれ発揮して事態解決に当たるような、いかにも男の子が好きそうなワンダバテイスト溢れる作風が目立ってたので、てっきり男性だと思ってました。そういえばこの作者の作品って、自衛官とかおっさんキャラとか、一生懸命汗臭く無骨に描こうとはしていても、なんかその汗の香りに清涼感があるというか、どこか「王子様」っぽかったんだよね。その辺が同じ自衛隊を題材としてても、何の作為もなく否応もなく加齢臭が滲み出てくる福井晴敏とは大きな違い(w なるほど女性と知ればそれも納得。そういや図書館戦争シリーズはずっと主人公女性だったのになんで気付かなかったんだ>オレ。




『号泣する準備はできていた』 江國香織新潮文庫
タイトルに「号泣」なんて入ってますが、「泣きながら一気に読みました」系ではなく、むしろ恋愛における情感や、それが変節する切なさを淡々と綴ったという印象の短編集。