えだは

モー神通信のTKです。ほんばんは。

読了

『神様のボート』 江國香織新潮文庫

必ず戻るといって消えた夫を待ち、"あの人のいない場所になじむわけにはいかない"と引っ越しを繰り返す母・葉子と、母の世界に寄り添うように生きてきたその娘・草子。"神様のボートに乗ってしまった"という二人の旅の物語。


「親子が亡くした伴侶に関する一つの物語を共有して生きていく」という点では名作コミック『Papa told me』とも重なる。ただ大きく違うのは、『Papa〜』は父親が娘のためを想って亡き妻の美しい物語を紡ごうとしているのに対し、この『神様のボート』では、妄想とも言える「母親が見る世界」を守るために娘がその物語に寄り添ってあげている点だ。ことほどさように子供は母親が好きなものである。父親という欠落を背負って人よりも大人びている草子だけに、世界における母親の占める割合が圧倒的なのだという、その年相応の愛情との捻じれがただ切ない。


しかし、そんな日々は子供の成長と共に必然の終焉を迎える。この物語には現実離れした母子の生活を白い目で見る者や、下卑た噂を立てる者は登場しない。しかしそれは都合の良いおキレイな世界を描くためではなく、後半に訪れる草子の訣別をより鮮やかなコントラストで描くためなのだろう。