えだは

モー神通信のTKです。ほんばんは。

読了

ハンニバル (トマス・ハリス新潮文庫)
言わずと知れた『羊たちの沈黙』の続編。1988年に発表された『羊たちの沈黙』は、アメリカを騒がす連続猟奇殺人事件と犯人を追う新米FBI女性捜査官・クラリス、そして彼女に助言を与える天才心理学者にして食人鬼のレクター博士を描いた物語。現実世界でも増えつつあった猟奇殺人と当時としては珍しかったプロファイリングという手法を初めて本格的に扱ったこと、そして何よりレクター教授の強烈なキャラクター性によって、まさにサイコスリラー・ホラーの歴史を一変させた。ついでに言うと、優れた心理学者・臨床心理医は初見で相手の略歴を言い当てるもんだという誤解を流布させた。そんなことしません。


題名の通り、およそ10年の時を経て発表された続編である本作は、前作の最後で刑務所からの逃亡を果たしたレクター博士のその後を扱った物語となっている。レクターへの復讐に燃える資産家と彼に取り入るFBIの厭らしさが執拗に描かれ、むしろレクター博士がヒーローのような扱いだ。クラリスは復讐劇に巻き込まれ、ヒーローの助けを待つヒロインといったところか。思考力、記憶力、行動力いずれも常人を遥かに凌駕するレクター博士だが、彼を彼たらしめている随一の才能とは表現力なのではないだろうか。己の特殊な欲望をいかに“表現”するか。その結果に劇中世界の人間たちも、読者も注目せざるを得ない。


ちなみに本作の中では博士がいかに高尚な趣味をお持ちかの描写に紙数の大半が費やされているような気がしないでもない。


ちなみにこのシリーズは、私は小説『羊たちの沈黙』→映画『羊たちの沈黙』→映画『ハンニバル』→映画『レッド ドラゴン』→小説『ハンニバル』という順番で見ている。なんで今さら『ハンニバル』を読んだのかというと、偶然本屋で見かけたからとしか言いようがないのだが。