えだは

モー神通信のTKです。ほんばんは。

読了

アメリカ第二次南北戦争 (佐藤賢一
大統領暗殺事件をきっかけにアメリカがに二分されたという仮想の近未来。その内情を探るべく日本人調査官は米国に降り立つ。北部から南部へ内戦によって人の本質がむき出しになった国土を行く旅は、同時にアメリカのさまざまな面に対し、光を当ててゆく旅でもあった。


舞台は近未来ではあるものの、ほぼ現在と考えて差し支えない。歴史上の人物の根本的な行動原理を極めてシンプルなものとして読み解き、その複雑な人生を貫く一本の道を見せることが佐藤賢一の真骨頂。しかしそれは歴史小説だからこそ可能なのであって、人の行動に複雑な要素がからみ合う現代を舞台としてはその手法は使えないのではないか? そう思えば南北分裂というかなり無理がある設定を付与したのは、人の蛮性が剥き出しになる戦闘状況を作り出すことで佐藤流の語りを可能としたのかもしれない。


そうした状況下で解析されるアメリカのあり様を、フィクションであるとのエクスキューズを含めた大袈裟さと認識するか、あるいは剥き出しにしてしまえばすまし顔の近代国家とてこの程度でしかないと見るか。


いずれにせよ、今回シンプルな行動原理に解析されて、その生を語られる対象はアメリカという国家そのもの。世界一の大国で、民主主義の旗手を標榜し、世界中に戦争をまき散らす、そんな特殊なアメリカという国家の血統と理念を、佐藤流のシンプルさで読み解いて見せている。 ああ、と腑に落ちる要素も少なくなければ抜群に面白くはあるのだが、やはりストレートに楽しめるのは歴史ものの方だとも思う。