えだは

モー神通信のTKです。ほんばんは。

読了

『クレイジーヘブン』垣根涼介幻冬舎文庫
自分の車を荒らした犯人を執拗に調査して見つけ出し、ゴルフクラブで半殺しの目に合わせて現金まで奪う。明らかに常軌を逸し、タガが外れている一方で、その現金に手をつけるでもなく平凡なサラリーマンとして日々を過ごす。危ういバランスで生きる坂脇恭一。そしてヤクザに脅され、ヤク中にされ、美人局の片棒を担がされる田所圭子。ドス黒い怒りを腹に秘めた男と、あまりに幸せから遠い日々に慣れきってどこまでも卑屈な女。出会った二人は絶望に堕ちるのか、自由へと脱出するのか。


あらすじに書いた通り、主人公が危ういバランスにいることから来る予測不可能性が読み手を引き込む。例えば自らの意志で悪の世界に身を置くピカレスク小説の主人公であれば、どのような美学を持っていたとしても、犯罪者である限り知れきったのたれ死にが物語としては似合うし、読者としてもその予定調和で安心して読み終えることができる。だけどこの主人公(とヒロイン)の場合、常に読み手が共感し得る倫理観の境界線上を彷徨っているので、作者がどのような結末を用意しているのかはもちろん、読んでいても自分がこの主人公の破滅を望んでいるのか、幸せを望んでいるのかすらわからないのだ。またそれらの結末に対し、自分が読み手として納得できるのか、できないのかもまたわからない。だから結末に向かって読み進めながら、本当にハラハラしてしまう。ここ最近では一番スリリングな読書体験であった。